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-story-

「郵便屋の黒いズボン」
　
島の配達物はすべて郵便配達員が配達をしている。細い道もなんなく通れるスクーターに乗って、１日かけて島中を走り回る。郵便配達員は島のことを誰よりも知っていた。誰がどこに引っ越してきたのか、お金持ちになり大きな家具を買った人、子どもが生まれた家族も、そこへ届ける荷物が物語っていた。そんな仕事に誇りを持っていた。

ある時、袋に張り付いた伝票には「キジ」と書かれた大袋が届いた。郵便配達員はキジという単語を読んで、何が入っているのかピンとこなかった。更に届け先は「魔女」となっており住所が記されていない不思議な荷物だ。

島に住む魔女と言えば、中央塔の住居に住む魔女と呼ばれる女性に違いない。郵便配達員は島への荷物はすべて確実に届けられる自信があったので、その大袋をスクーターの背中に積んで魔女のもとへ向かった。

魔女の元へ向かったのはもう日が暮れた後だった。魔女の家は塔の上にあり重い袋を持って階段を上がらなければなからなかった為、郵便配達員は後回しにしたのだ。階段を登り切り魔女の家の前まで行くと、家の扉は開いていた。

魔女は滅多に人の前に現れない。郵便配達員は緊張しながら魔女に「お届けものです」と言って大きな袋を家の中に入れた。魔女は「ご苦労様」と返事をした。そして、「そこのテーブルに上にある服をあげるから持っていきなさい」と続けた。郵便配達員は魔女は服を縫うことができ、荷物の中身が材料の“生地”だと解った。

その服は黒いズボンだった。郵便配達員は今はいているズボンは膝に穴が空いていて、毎日の配達で裾が擦り切れボロボロになっていた。どうやら魔女は新しいズボンを新調してくれたのだ。郵便配達員は「ありがとうございます」と魔女に伝たとき、フードに隠れた顔がうっすらと笑ったような気がした。