model 178cm

model 170cm

detail 1

ポケット

袖ベルト

フロント

裾

バック

detail 2

-story-

「いい加減な医者のマント」

　魔女は然るべき時に然るべき人へ服を仕立てると、島では暗黙の了解になっていたため魔女が服の注文を受けることはなかったが、一度だけコートを頼まれたことがあった。島唯一の医者の男からだ。冬でも比較的暖かくコートを着ている人はいないが、医者は普段白衣しか着ておらず、外出するとき上から羽織るコートが必要だった。

　この男は煙草をよく吸い、性格もいい加減で、ほとんど患者と会話をしない変わった医者だった。ただ、医者としての腕は確かで、住人は医者の性格を理解しており、医者として敬意を払っていた。この狭い島だからこそ医者は馴染めていた。

　長く生きる魔女は今まで多くの死を見てきた。この医者も何度も助けられない命を見届けた。消えゆく命が目の前を通りすぎた時の遣る瀬無さを、医者も魔女もよく知っている。だから、魔女は医者の注文を受けようと決めた。

　この島にはサラサラと霧雨がよく降る。傘を差さなくてもいい程度だが、冬の雨で気温が下がると空気が冷たく、息をすると喉がひやりと刺激される。魔女はこんな雨の日の外出も耐えうるようなコートを仕立てようと決めた。

　トレンチコートとマントを組み合わせ、羽織れるデザインにした。袖を通さなくても着られるコートが医者の要望だった。コートを医者に渡したとき、医者は普段と変わらない顔で受け取り、ただ一言「助かる」と呟いた。魔女はその言葉がどれだけ重いものかを理解しており、不思議と笑みがこぼれるのだった。