-story-

　本島とこの島を行き来する手段は一日一往復する定期船だが、急を要する場合や海の状況に寄って航空機の出番が来ることもある。島にはベテランのパイロット兼航空整備士が公務員として国から派遣されていた。彼は二十名ほど乗れる小型機のメンテナンスをしながら毎日暮らし、小さな飛行場の設備も丁寧に見る仕事をしていた。一年のなかで航空機を飛ばす機会は数回しかなく、時間を持て余すこともあったが、島の住人からは船が使えない大事の不安がないことで、安心して暮らせる保険のような印象を持たれていた。
　彼は車や機械の修理を手伝うこともあり重宝されていた。設計図があればある程度の仕組みを理解することができたからだ。炭鉱は大手の財閥の資本が投下されており、大型機械の専門のメカニックが駐在していたが、家庭で使用する細かな機械は修理をする人が少なく、時折故障が重なりひっぱりだこになるときもあった。そんな忙しい時でも、彼は仕事を請け負い修理をし続けた。
　彼は公務員だったため副業は認められず、給与は国から支払われている分以上を受け取ることはなかった。だから、住人からの依頼は無償でやっており、賃金の替わりに飯を奢って貰ったり、電化製品や備品のお下がりや食料を貰っていた。彼はほとんど島でお金を使うことはなかった。
　島に派遣される公務員は３年ほどで入れ替わる。彼が任期満了となったとき、島の住人からはなんとか島に留まってもらえないだろうかと懇願された。しかし、遠方手当目的ではあるが本部から転勤を希望している者がいたため、彼はやむなく島を離れることとなった。
　彼が島を離れるとき、魔女は１着の服を縫い上げた。これはパイロットである彼が特に気に入っていたＭＡ－１をアレンジした大きなジャンパーだ。他のところで暮らしても島の人々のことを忘れないようにと、彼と仲の良かった住人が編んだ長い紐をジャンパーの中に繋いだ。島を離れてもこのジャンパーを着ている限り、彼は島のことを忘れることはなかった。