-story-

「信じる者のネックレス」

　島には石造りの静かな教会があり、神父が住んでいた。朝日が昇ると高い窓から光が差し込む小さい教会だ。ヨーロッパとの交流が多い港町と島の住人は行き来していたため島に教会を建てたのだが、キリスト教がそのまま伝わらずに、島独特の宗教観に変わって根付いていた。

　神父は朝と夕方にミサを行う。住人の相談を聞くこともあった。教会は常に開いていたので、狭い空間だったが島には欠かせない憩いの場となっていた。

　神父は布教活動には熱心なほうではなかった。なぜなら、誰でもそれぞれの心に信じるものがあればよいと考えていたからだ。教会という拠り所があり、礼拝に来ることで救われるのなら、この場所を選べばよい。信者から寄付を集めることもしなかったので、教会はいつも質素だった。

　熱心な信者のなかにロザリオを求める声があった。どこにいても祈れるように欲しがられたのだ。そこで神父は教会の雰囲気にあったロザリオを島に住む魔女に頼むことにした。仰々しくなく、十字架が付いていないシンプルなネックレスにしてほしいと伝えた。

　神父の教会は聖書の影響は受けているものの偶像崇拝を推し進めていなかった。この島国に合うよう自然という神を称え社会と繋がるコミュニティとしての機能を果たせればよかったのだ。だから、宗教色の強さはいらなかった。

　この国の住人は無宗教だ。それでも、いざというときに頼れるものがあったほうが生きやすい。魔女の作ったネックレスは、自分を信じるものが救われるネックレスだったのだ。